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高松高等裁判所 昭和36年(ラ)12号 決定 1961年12月04日

抗告人 松田春次

相手方 松田豊 外四名

主文

原審判を取消す。

本件を徳島家庭裁判所阿南支部に差し戻す。

理由

抗告人は原審判を取消す旨の裁判を求め、その抗告理由は別紙の通りである。

抗告理由第一点について。

原審における抗告人及び相手方豊に対する各審問の結果、家庭裁判所調査官の調査報告書、当審における抗告人審尋の結果によると、抗告人の被相続人の生前においては被相続人と同居し、本件相続財産中の各農地及び原審判書添付第四目録記載の柳さこ一〇番、山林一反一畝八歩(現況田及び畑)(以上合計二反九畝二四歩)等によつて主として農業に従事していたものであり、被相続人死亡後は前記第四目録記載の三筆の土地は相手方豊に明渡したけれども、その他の農地により農業を営んでおり、将来も農業を継続する意思を有しているものであるのに対し、相手方豊は、被相続人とはその生前から別居し、主として山仕事或は日傭等に従事していたものであることが認められる。

ところで、原審判による遺産分割方法に基づくときは、抗告人が取得することとなる農地は原審判書添付第二目録の(2)乃至(11)の田畑合計七畝一四歩のみとなり、これに対し相手方豊の取得する農地は前同第一目録の(1)及び第四目録の柳さこ一〇番の農地合計二反二畝一〇歩となることになる。

そうすると、右のような分割方法によるときは、抗告人としてはその農地が従前の約四分の一に減ることとなり、その結果従来の形態において農業を継続して行くことが困難となると考えられるのに反し、相手方豊は従前殆んど農業を営んでいなかつたのに、新たに二反余の農地を取得することとなつて、新に農業経営を開始する必要が生じることとなり、前認定のような抗告人と相手方豊との間の諸事情の差異、その他一切の事情を考え合せると、原審判のような分割方法は、本件については合理的なものでないといわなければならない。抗告人が相続財産中農地を多く取得することを希望し、それによつて生じる過不足は、金銭の授受によつて調整することを主張するのは、理由があるものというべきであり、原審判は右の点において取消を免れないものである。

そうして、抗告人と相手方豊とに対する相続財産の分割方法を異にするときは、その余の相手方に対する分配方法にも当然影響があるから、原審判中主文第一項乃至第四項は全部取消すべきである。

抗告理由第二点について。

原審判書添付第四目録の三筆の土地が抗告人の所有であるか相手方豊の所有であるかは争いのあるところであり、かつ、これが特別受益財産に属すると認められる点からして、本件遺産分割に当つてこれが抗告人か相手方豊のいずれに帰属するものであるかは、これを認定する必要はあるけれども、それに伴つて右各不動産に対する登記等を命ずることは遺産分割の審判においては為すべきでなく、その必要もないと考えられる。即ち、特別受益財産は遺留分に基づく減殺の請求等によつて相続財産に繰入れられない限りは、既に夫々の特別受益者に帰属しているものであり、遺産分割の直接の対象となる財産の範囲には原則として属さないものであり、ただ特別受益者のある場合において相続分を算定する基準を定めるために必要なものであるに過ぎないのであるから、遺産分割の審判においてその特別受益財産の権利関係の変更を命ずるが如きことは適当でない。

従つて、原審判が前記三筆の土地につきこれを相手方豊の特別受益財産と認定したのは相当であるが、抗告人及び相手方豊を除く他の相手方らに対し右各土地についての各所有権移転登記の抹消を命じた点は違法なものというべきである。この点についての抗告は理由があり原審判主文第五、第六項は取消すべきである。

以上説明した通りであるから、抗告理由中その余の点に関する判断を省略し、原審判は全部これを取消し、当裁判所において審判に代わる裁判をすることは相当でないと認めるから、本件を徳島家庭裁判所阿南支部に差し戻すこととし、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 渡辺進 裁判官 水上東作 裁判官 石井玄)

抗告理由 <省略>

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